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てとらちゃんとオワリ七日間戦争 《てとらちゃんとおわりなのかかんせんそう》
大規模戦闘《レイド》に挑むプレイヤーにとっては、プレイヤースキルだけでなく、その装備もまた重要である。てとらちゃんのような回復職であれば、チームの生命線である回復能力の強化などは最重要ポイントのひとつだろう。
有用な装備は誰もがこぞって入手しようとするが、そういった目玉ドロップがあるレイドコンテンツやダンジョンなど人が集まる場所では、混雑やトラブルがつきものである。これはてとらちゃんがとあるレイド装備を入手するために経験した戦いの記録だ。

オワリ地方のレイドコンテンツ〈再殺の坩堝〉で入手できる回復職用の幻想級ローブ〈覚醒の法衣《ガーブ・オブ・アセンション》〉は、アンデッドへのダメージ増加や被ダメージ軽減、回復魔法の効果上昇などが備わり準幻想級といえる強力なアイテムであったが、なかでも注目されたのが「固有回復魔法の効果アップ」という能力である。
〈施療神官〉の起動反応回復魔法ならばその起動回数が増加し、〈森呪遣い〉の脈動回復魔法は回復間隔の短縮、〈神祇官〉ならば障壁魔法の強度が加算されるというもので、これはプレイヤー自身の取得している類似効果にさらに累積することがわかり一躍注目の的となった。(ただし、アイテムに付与される効果が〈施療神官〉〈森呪遣い〉〈神祇官〉のうちどの職に対応するかはランダムとなっており、自分の職業に対応した法衣を入手するためにはそれなりの運とレイドのクリア回数が必要とされたのだが)。

さて、我らがヒロインてとらちゃんはソロながらさまざまなレイドに助っ人参加する機会も多く、ハードな戦闘で戦線を維持するためにも、〈覚醒の法衣〉の入手は必須だと思い立ち(なおデザインがすごく好みだったこともやる気の少なくない割合を占める)。フレンドにも声をかけ、早速オワリへと向かう。

〈再殺の坩堝〉の舞台となる〈フェンラントの古戦場〉は丘陵地帯に広がる古戦場をイメージしたフィールドダンジョンである。四方に徘徊する無数のアンデッドモンスターを討伐していき、その過程で入手できるトリガーアイテムを使って、古戦場の主が待ち受けるレイドゾーン〈ロガネイの丘陵墳墓〉へと突入する仕組みだ。丘陵墳墓へ入場するためのトリガーアイテムはレイドリーダーがひとつ所持していればよいが、前述のように法衣に付与される固有回復魔法の効果アップ対象はランダムであり、連戦前提でチーム内で複数個のトリガーを用意するのが効率的とされていた。
友人たちとともに古戦場に降り立ったてとらちゃんも、さっそく周囲のアンデッドを掃討にかかる。さすがに人気スポットと化した古戦場は混雑しており、無数に湧き出すアンデッドの出現速度よりもプレイヤーたちの狩る速度のほうが速いほどだった。

しかし、ここでてとらちゃんたちはどうも様子がおかしいことに気づく。通常であればフィールド内で一定数アンデッドが狩られるたびに小ボス的モンスター〈呪縛された骨門番《カースド・ボーンワーデン》〉がランダムな場所に出現し、これを倒すことでトリガーアイテム「骨門番の呪骨」を入手する仕組みなのだが、調子よくアンデッドを狩っている割には〈呪縛された骨門番〉とほとんど戦えていないのである。

よくよく周囲を観察してみれば、古戦場のあちこちをワープ移動しながら、出現した〈呪縛された骨門番〉“だけ”を狩っているグループがいる。通常のプレイヤーキャラクターでは不可能な移動速度で動き回り、周囲のプレイヤーが沸かせた小ボスだけを独占しているのだ。
骨門番を沸かすためには数十体単位の討伐が必要なため、1パーティだけではとても効率が悪い。ゆえに自分たちだけではなく、フィールド内の不特定多数のプレイヤー全員が協力して雑魚を狩り、近くに骨門番が沸けば倒してトリガーアイテムを手に入れる、という空気ができていたのだが、彼らは周囲のパーティーにがんばって雑魚を倒させ、その成果である〈呪われた骨門番〉だけを狩っているのだ。独占行為をやめてほしい、とチャットで伝えるも返事はない。てとらちゃんたちも負けじと骨門番を沸かせて戦おうとするのだが、沸いた瞬間彼らに釣られてしまう。結局、その日はトリガーをろくに集めることもできず、時刻も夜半を越えててとらちゃんも寝る時間がきたため現地解散となってしまった。

その日、〈エルダー・テイル〉のコミュニティでも「〈フェンラントの古戦場〉に業者が来た」という話題で持ちきりとなった。「業者」とはゲーム内のデータや通貨を実際のお金で取引する「リアルマネートレード」業者のことであり、外部ツール(もちろんゲームの利用規約違反である)を駆使してお金になりそうなアイテムやモンスターを独占し、それを現実の通貨でほかプレイヤーに売りつけるのである。おそらくは〈覚醒の法衣〉がほしいプレイヤー相手に独占した「骨門番の呪骨」を高値で売りつける目的なのだろう。現地ではGM(ゲームマスター)への通報も行われたようだが、彼ら業者は捨てアカウントをいくつも用意しており、アカウント凍結などを行われても効果が薄いのが実情だ。

翌日の古戦場でも、業者と見られるグループによる骨門番の独占は続いた。というよりも、業者側は交代制でほぼ1日中古戦場に張り込んでいるのだ。周囲で狩っていたほかのプレイヤーたちも、事態に気づいてはいたが相手の移動スピードや機械のように正確な骨門番一本釣りに抵抗できるはずもなく、フィールドにはいらいらした空気が満ちていた。やる気を奪われてそのまま帰還してしまう者も現れ始める。

では我々は何の手だてもないまま、延々と雑魚だけを倒し続けるのか? 業者にいいように狩場を荒らされるのが〈冒険者〉であるてとらちゃんたちの正しい姿なのか? 答えは否である。漫然と雑魚を倒して骨門番の出現を待っていても事態は好転しないと考えたてとらちゃんは、広域チャットを使用してフィールドにいるほかのプレイヤーたちに「業者に負けないよう協力しようよ!」と呼びかける。骨門番は一定数倒されるごとにポップするので、全員で雑魚討伐の数をカウントして骨門番出現のタイミングを周知し、全員がいっせいに周囲を探れば業者に独占されることも防げるはず。相手がツールでズルをするなら、こちらは数で対抗するのだ。

このアイディアに半信半疑ながらほかのプレイヤーたちも応え、討伐数を報告するチャットが古戦場に飛び交う。四方から聞こえてくる討伐カウントを聞きながらてとらちゃんが〈呪縛された骨門番〉の出現タイミングをお知らせするようにしたことで、この日は完全ではないものの、業者によるモンスターの独占を防ぐことができた。

てとらちゃんたちの行った業者対策はネット上の掲示板などで拡散され、3日目にはより大人数が〈フェンラントの古戦場〉に参加しての討伐が行われた。中にはレイド参加のためではなく、業者許すまじの義憤や、お祭り感覚で駆けつけたようなプレイヤーもいたようだ。討伐カウント役も交代でこなすことができ、前日とはうってかわったにぎやかな空気の中でてとらちゃんのチームもそれなりの数のトリガーを手に入れることができた。
一方で、古戦場で見かけなかったプレイヤーたちが〈ロガネイの丘陵墳墓〉へと突入し大規模戦闘を行っているところも確認された。おそらくは業者からトリガーを高値で購入した人たちだろう。しかし、討伐数カウント作戦によって業者側の目論見はつぶされた、と参加したプレイヤーの大部分は考えており、口々にお疲れ様、ありがとうを交わしながら解散していったのだった。

しかし、続く4日目はまた様子が変わる。今まで24時間いつでも見かけられていた業者プレイヤーが姿を消した代わりに、てとらちゃんたちが雑魚をいくら倒しても骨門番が出現しなくなってしまったのだ。ある意味お祭り騒ぎだった3日目に比べれば討伐を行っているプレイヤーは少ないが、それでも一匹も出現しないというのはおかしい。「バグか?」「告知なしでパッチが当たったとか?」「ふしみィィ!!」などと憶測が飛び交ったが、ここで戦場を巡回していたプレイヤーのひとりが、フィールドの隅っこで延々と「アンデッドに絡まれては自殺する」低レベルキャラクターの群れを発見した。つまりこれも業者の仕業だったのだ。
この古戦場ではアンデッドの討伐数に応じて〈呪縛された骨門番〉が出現するしくみだが、一方でPCが倒されるとペナルティとして討伐数が大きく減少してしまうというギミックも存在している。業者は骨門番のこれ以上の独占が難しいと判断して、今度は他のプレイヤーがトリガーアイテムを入手できなくなるよう、フィールドのアンデッド討伐数を減少させる作戦に出たのだ。新たなトリガーが手に入らなくなれば、業者が溜め込んだ在庫を購入せざるを得ない、というわけである。
事態を把握したてとらちゃんたちは「汚い! 業者きたない!」と叫びながらも狩りの速度を上げて対抗しようとするが、ひたすら敵に突っ込み死亡してはフィールド端の復活地点でよみがえる捨てキャラ軍団によって、結局解散の時間まで、骨門番を出現させることはできなかった。

5日目。手を変え品を変え妨害してくる業者に流石にあきらめムードが漂い始めていた〈フェンラントの古戦場〉だったが、それでもてとらちゃんは諦めなかった。だってなんとしても自力で〈覚醒の法衣〉が着たいんだもん! 狩場に出発する前にフレンドに連絡をとり、さらに現地のプレイヤーたちにも広域チャットで「業者に負けたくない人、ゲームの中でがんばりたいひと、協力してくださいっ!」と呼びかける。そして、集まってくれたプレイヤーたちをその場で臨時パーティーに再編成し、改めて古戦場での戦いが始まった。
まず、自殺を試みる捨てキャラの群れに対しては、3種のヒーラーたちを集めたチームによる〈起動反応回復〉〈脈動回復〉〈障壁〉、そして範囲回復魔法が降り注ぐ(いわゆる辻ヒールである。回復魔法はパーティーを組んでいない相手にも使うことができ、そしてそれに抵抗することはシステム的にできないのだ)。一方で周囲のアンデッドは出現するそばから戦士職が「挑発」で遠くに引き離す。相手の動きを止められるわけではないので、戦場に散らばられてしまえば完全に自殺を防ぐことはできないが、復活ポイント付近での集団自殺を繰り返すことさえ食い止められれば、散発的なカウント低下よりも戦場を巡回する攻撃チームによる討伐速度のほうがペースは上なのだ。
即席チームによる連携ではあったが、この策が功を奏して1時間ほどで〈呪縛された骨門番〉を引きずり出すことに成功した。周囲の雑魚アンデッドよりちょっと強いだけの小ボスなのだが、出現が確認されたときには戦場のプレイヤー全員が歓声を上げたという。

6日目になると、業者側の自殺キャラが2倍に増えていた。しかしプレイヤーコミュニティで前日の顛末と対策を知ったプレイヤーたちも〈フェンラントの古戦場〉に集まり、フィールドは再びお祭り状態になっていた。想定された以上にプレイヤーたちが集まりいっせいに特技を使用し、さらに数が増えた業者側のツールによる自動入力スクリプトが通信回線に更なる負荷をかける。通信ラグで画面描写もガクガクになっている中、てとらちゃんも「クレリックで救える命があるんだよっ!」などと叫びつつ自殺キャラに〈起動反応回復〉や〈オーロラヒール〉をばらまく。SNSなどで現地の様子が実況され、それにつられて野次馬プレイヤーまで参加してきたため、最終的にオワリ地域のゾーンがダウン。翌日まで緊急メンテナンスが行われる事態となった。

そして一夜明けた7日目。メンテナンス中にパッチが当り、トリガーアイテム「骨門番の呪骨」は「キャラクター1人につき1個まで所持でき、売買や受け渡しは不可能」という属性を持たされ、入手するためには自力で骨門番を倒さなければならなくなった。同時に、あれだけしつこく現れていた業者プレイヤーはきれいに姿を消し、〈フェンラントの古戦場〉に集ったてとらちゃんたちは大きな疲労とともに、お互いの健闘をたたえ、勝利を喜びあうのであった。
なお、てとらちゃんがそれまでにゲットできていた「骨門番の呪骨」20個もパッチの適用によって1個だけになってしまっていたが、この偉大な勝利の前には瑣末事だろう。

これが後に〈オワリ七日間戦争〉と呼ばれることとなったプレイヤー対業者の戦いである。
なお、てとらちゃんがお目当ての効果が付与された〈覚醒の法衣〉を手にするまでには、その後30戦ほど大規模戦闘をこなすことになったのだが、それはまた別のお話。

関連項目